ビルトインガレージとは?メリット・デメリットや注意点を紹介
住まいづくり
お車が好きな方が新築される際、駐車場の設計は、建物の設計と同じくらい注力されるでしょう。「できる限り広くしたい」とか「愛車を風雨や盗難から守りたい」と悩まれるはずです。
そんな悩みを解決する方法のひとつが、ビルトインガレージです。ビルトインガレージなら、家の面積を犠牲にすることなく、愛車を雨風や盗難から守れる広い駐車場を設けられます。
本稿では、ビルトインガレージのメリットやデメリット、設置時の注意点などを紹介します。あなたも広くて使いやすいガレージを手に入れ、愛車を守りながら、快適な生活を送ってみませんか。
ビルトインガレージとは
まずは、ビルトインガレージの特徴から、ご紹介しましょう。
インナーガレージとは違うもの?
ビルトインガレージとは、建物の内部に組み込まれた車庫のことです。入口に、ドアやシャッターを備えたタイプもあります。
ちなみに「インナーガレージ」も同じもので、このようなガレージを備えた家のことを「ガレージハウス」と呼びます。広い敷地に建つガレージハウスに憧れる男性は、少なくないでしょう。
とくに車やバイク、自転車好きの方なら、こんなことを考えたことがあるのではないでしょうか。
- 「愛車を野ざらしにするのではなく、部屋に入れてあげたい」
- 「室内から車を眺めたり、屋根のある場所で整備したりできるようにしたい」
このような願望をかなえてくれるのが、ビルトインガレージです。
なお、ビルトインガレージは、車庫以外の目的で利用されるケースもあります。床が土間ですから、趣味道具の置き場やDIYの作業場などに好都合ですよね。
広ければ、SOHOにも使えます。たとえば、アメリカのシリコンバレーでは、Googleがガレージで創業した逸話が有名です。創業期のAppleも、コンピュータの動作確認等に使っていたそうです。
固定資産税の取り扱い
ビルトインガレージは、容積率の緩和措置を受けられます。ビルトインガレージの一部または全部を、延床面積に参入しなくてよいのです (詳しくは後述)。
このことから、ビルトインガレージは「固定資産税の課税対象となる面積にも算入しなくてよい」と思われがちです。しかし、建築基準法上の「延床面積」と固定資産税上の「床面積」は別ものです。
一般的に、固定資産税上の床面積は登記簿の床面積と一致します。登記の床面積に算入する条件は「不動産登記規則第111条 (建物)」に以下のとおり記載されています。
- 屋根及び周壁又はこれらに類するものを有し(外気分断性)
- 土地に定着した建造物であって(定着性)
- その目的とする用途に供し得る状態にあるもの(用途性)
つまり、ビルトインガレージの三方が壁に囲われている場合、登記面積に算入され、固定資産税がかかります。
壁が二方向にしかない、あるいは壁に大きな空洞部分があり外気分断性に欠けるケースでは、登記面積に算入されず、固定資産税がかからない場合があります。
これはバルコニーにも言えることですので、覚えておかれると間取りを検討する際に役立ちますよ。
知っておきたいビルトインガレージのデメリット
つづいて、ビルトインガレージのデメリットをふたつご紹介します。採用される前に把握しておき、対策されるとよいでしょう。
建築コストが上がりやすい
ビルトインガレージのある家は、耐震性の高い構造にする必要があります。耐震補強や構造計算をされる場合は、一般的な住宅に比べてコストアップするでしょう。
狭小地でビルトインガレージを設けて3階建てにする場合は、以下の費用にも留意しなくてはなりません。
- 地盤改良費
- エレベーター
- 不燃建材
3階建ては建物が重くなるため、沈下を防ぐための地盤改良工事費が上がりやすくなります。老後のことを考えると、エレベーターを設置しておく、または設置可能にしておくほうがベターでしょう。
また、防火地域や準防火地域では、3階建ては平屋や2階建てより建物の防火性能の規定が厳しいため、建材に不燃材を使用することでコストアップしやすくなります。
参考:建築基準法施行令 第136条の2(防火地域又は準防火地域内の建築物の壁、柱、床その他の部分及び防火設備の性能に関する技術的基準)
さらに、ビルトインガレージは、防火の観点から屋内の壁と天井に内装制限を受けます。準不燃材料を用いる必要があり、自由に内装材を選べません。
ですから、コストダウンしづらいと言えます。
盗難やイタズラを防止されたい場合は、ドアやシャッターも必要になります。冬に暖機運転を行う地域や、愛車の整備やご趣味のために長時間滞在される場合は、換気設備も必要でしょう。
もしも、できるだけコストアップを避けたいのであれば、3階建てにしなくて済むような間取りにしていただくとよいでしょう。
地震に弱くなる場合がある
ビルトインガレージを設けると、建物の1階部分に大空間ができてしまいます。さらに、車が出入りする部分は壁を設けられず、大開口が空いてしまいます。
では、間口が狭く奥に長い狭小地で、ビルトインガレージのある家を建てるとどうなるでしょうか。
多くの場合、3階建てになり、道路側の面は壁や柱がほとんどなくなってしまいます。1階部分の耐力壁(地震や風圧に対抗するための壁)にも、以下のような問題が生じやすくなります。
- 量が少なくなりやすい
- 配置バランスが悪くなりやすい
耐力壁が少ない、あるいは配置バランスが悪い状態の建物は、揺れやネジレが発生しやすくなります。ですから、地震に弱くなる場合があるのです。
3階建ての住宅は、建築基準法で構造計算(建物の安全性を確認する計算)の提出が義務づけられています。ですから、ちゃんと耐震等級1(建築基準法の耐震基準相当)はクリアできているはずです。
しかし、平屋や2階建てに比べて、以下のような弱点が残ります。
- 耐震等級3(等級1の1.5倍の耐震性)の取得難度が高い
- 構造や間取りに制約ができる
- 風に弱く揺れやすい
熊本地震では、益城町中心部で震度7の地震が2回(前震・本震)発生しました。その結果、耐震等級1の建物の中には倒壊してしまったものもありました。一方、耐震等級3の建物は倒壊ゼロでした。
ビルトインガレージに憧れている方は、可能であれば、3階建てにしなくて済むような広めの敷地を用意してください。そのほうが、高い耐震性を確保しながら、個性的な間取りにしやすくなります。
ビルトインガレージならではのメリット
つづいて、ビルトインガレージならではのメリットを4つご紹介します。
容積率の緩和措置がある
敷地には「容積率」という制限があり、この割合を超える面積の家は建てられません。
一方、車庫は「建物の延床面積の1/5」を上限に容積率の緩和を受けられます。
ですからビルトインガレージは、狭小地の建築など、敷地を有効活用したい場合に重宝されています。
たとえば、1階の道路側をビルトインガレージに。1階の奥側や、2階3階をメインの居住スペースにすると、思っていた以上に広い家を建てられます。
ご近所で駐車場を探さなくてよくなりますよ。
愛車を保護できる
ビルトインガレージなら、雨風や紫外線の侵入を相当に防げます。汚れ・サビ・塗膜の劣化などから、愛車を守りやすくなるでしょう。
ですから車やバイク、自転車の美観を長く保つことができ、メンテナンス頻度を下げられます。天候に左右されることなく、愛車をメンテナンスすることもできますよ。
シャッターを付ければ、盗難やイタズラに遭うリスクを軽減させられます。ビルトインガレージの隣にお部屋を配置して窓を設ければ、いつでも愛車を鑑賞できるでしょう。
雨の日でも乗降車しやすい
ビルトインガレージは、建物の内部に組み込まれています。ですから、天気が悪い日でも雨に濡れません。ご年配の方や車椅子の方でも、雨で慌てることなく乗降車できます。
ビルトインガレージから室内に出入りできるドアがあれば、そのまま家の中に入れます。キッチンやパントリーとガレージをつなげると、買い物の荷物の運び入れもラクになります。
駐車スペース以外にも使える
ビルトインガレージの床は、一般的にコンクリートやモルタルが多いでしょう。ですから、重い車が載っても割れず、汚れてもあまり気になりません。
オイルフィニッシュを塗布したり塗料を塗ったりすることで、水分や汚れの対策もできます。このようなスペースは、車庫だけでなく、趣味のアウトドア・スペースとしても使えます。
たとえば、こんなことに利用できます。
- DIYの作業スペース
- ゴルフのパッティング練習場
- サーフィンやキャンプなどの道具置き場
- ティースペース・歓談スペース
多用途で使う可能性があるなら、コンセント(家電用、電気自動車用)やシンク(給排水できるようにしておく)があると便利でしょう。
広めのインナーガレージにしておくと、使い道が広がりますね。
ビルトインガレージを検討する際のポイント
最後に、ビルトインガレージを検討する際のポイントを3つご紹介します。
耐震性を高める間取り・建物形状にする
繰り返しになりますが、ビルトインガレージのある家は、以下の理由から耐震性が犠牲になりがちです。
- 一階に大きな空洞ができる
- 車の出入り口の壁量が少なくなる
- 耐力壁(地震や風圧に対抗する壁)の配置バランスが悪くなりやすい
- 柱の直下率(上下階の柱の位置が揃っている割合)が低くなりやすい
とくに、間口が狭く奥に長い建物形状にした場合、耐震・制震構造を考慮した設計や建築技術が必要不可欠になります。
一方、地震に強い建物の条件は以下のとおりです。
- 耐力壁の量が多く、配置バランスがよい
- 柱の直下率が高い
- 外観の平面形状にデコボコが少ない
- 正方形や長方形(ただし、薄い長方形は倒れやすくなるのでNG)
ビルトインガレージを設ける場合は、できるだけ上述の条件に近づくように建物を設計していただくとよいでしょう。
車の入出庫や、乗降車のしやすさに配慮する
駐車場が狭いと、駐車するたびに大きなストレスを感じます。車で外出するのが、おっくうになるでしょう。
ですからビルトインガレージを設ける場合は、ストレスを感じることがないように、じゅうぶんな間口と奥行を確保する必要があります。
目安の寸法をご紹介しましょう。なお、記載の寸法は「軽自動車の目安~大型ミニバンの目安」とお考えください。
- 間口:2.5~3.5m
- 奥行:4.5~6.0m
上述の寸法を確保しようと思うと、軽自動車は「約3.5坪 (7帖)」のスペースが必要です。大型ミニバンなら「約6.5坪 (13帖)」のスペースが必要です。
さらに、以下のような個別の事情がある場合は、もう少し余裕が要るでしょう。
- 車庫入れが苦手
- 前面道路の幅が狭い
- 両方のドアから出入りしたい
- 車のドアが特殊な開き方をする
- 車に荷物を出し入れする機会が多い
- 車椅子から乗り降りする
また、間口の寸法は前面道路の幅の影響を受けます。切り返しなしで入出庫したい場合、少なくとも以下の寸法の間口が必要です。
前面道路幅(m) | 4 | 5 | 6 | |
---|---|---|---|---|
車庫間口(m) | 前進で駐車する場合 | 3.6 | 3.3 | 3.3 |
後退で駐車する場合 | 3.3 | 2.6 | 2.3 |
参考:LIXIL 駐車スペース
将来、大きな車に買い替える可能性も考慮したいところですね。
一戸建ての駐車場スペースのサイズについては、以下の記事でも解説しています。詳しく知りたい方は、あわせてご覧ください。
複数台の車を所有している方や、駐車場スペースを広く取りたい方は、大きめの土地の購入をご検討ください。家の間取りや配置計画の自由度も広がりますよ。
採光や換気、騒音に配慮する
ビルトインガレージでは、以下のことが発生しやすくなります。ですから、採光や換気、騒音に気を配りましょう。
- エンジンをかけた車から排気ガスが出る
- エンジン音がこもる
- シャッターの開閉時に音が鳴る
- エンジン音やシャッターの開閉で振動が発生する
- 暗いと転倒やケガする恐れがある
上述の問題に関しては、たとえば以下のような対策が可能です。
- 音や振動の発生しにくいシャッターを採用する
- ガレージの直上には寝室を設けない
- 換気ができるように配慮する
- 自然光や照明によって採光を確保する
シャッターについては、静音性が高い引き戸やスライダーにする方法もあります。
このような「問題になりそうなこと」を把握できていれば、解決策を探せます。しっかりデメリットを確認していただき、対策のし忘れがないようにしましょう。
【まとめ】広くて使いやすいビルトインガレージを手に入れよう
本稿では、ビルトインガレージのメリット・デメリットや設置時の注意点などをご紹介しました。ビルトインガレージなら、愛車を保護しながら保管できるだけでなく、敷地を効率よく利用できます。
しかし、ビルトインガレージには短所や注意点もあります。ですから、そのようなデメリットも理解したうえで慎重に設計する必要があります。そうすれば、より満足度を高められるでしょう。
これから「ビルトインガレージ付きの家」を建てる土地を探されるのであれば、広めの土地の購入をご検討ください。耐震性やコスト面で不利になることを避けやすくなりますよ。